どうなる?イギリスのブックメーカーによるスポンサーシップの禁止について

これまでイギリスにおいてスポーツベッティングのブックメーカーはサッカーのクラブチームのスポンサーを務めてきました。しかし、最近になってこのスポンサーを禁止する動きが出ています。この記事ではスポンサー禁止の経緯や現時点での状況をシェアしていきます。

これまでのスポンサーシップについて

2018/19シーズンでは、プレミアリーグで20クラブ中9クラブ、チャンピオンシップ(2部相当)で24クラブのうち17クラブのメインスポンサーがブックメーカーだったとされています。つまり、イングランドの上位2リーグで、全クラブの約60%のスポンサーがブックメーカーだったという計算になるのです。

また、ブックメーカーは上位クラブよりも下位クラブのスポンサーシップを務める傾向があります。これは、小規模のクラブであれば100万ポンド(約1.3億円)ほどの資金でスポンサーが可能だからです。これくらいの資金でブランド力を上げることができるのであれば、ブックメーカーは積極的にオファーをするということです。ブックメーカーのようなギャンブルにおいては社会からの信頼を得ることが最重要事項の1つであるため、プレミアリーグへのスポンサーが注目されたのです。

そして、イングランドでこのようなスポンサーシップが認められるようになった背景には、2005年に制定された賭博法(Gambling Act)が大きく関係しています。この法律によって、ブランドの宣伝活動が認められ、ブックメーカーはテレビで宣伝することも可能になったのです。この法律が制定されてから、プレミアリーグへのスポンサーシップが急増したのです。これまで以下のような企業がスポンサーを務めています。

  • ボーンマス:Mansion Group(ジブラルタル)
  • ウェストハム:Bet Way(マルタ島)
  • サンダーランド:Bet 365(ジブラルタル)
  • リーズ:32Red(ジブラルタル)
  • ハル:SportPesa(ケニア)
  • バーンリー:DeFabet(フィリピン)
  • ワトフォード:138.com(マン島)
  • クリスタルパレス:Mansion Group(ジブラルタル)

スポンサーを務める企業がイギリスの企業である場合、利益の15%を税金として納めなければいけないというルールがあります。そのため、スポンサーを務める企業はほとんどが外資となります。

プレミアリーグ:スポンサー契約金ランキング

ここではプレミアリーグのクラブのスポンサー契約の金額をランキングで紹介します。

順位チーム名企業名支払額
1位マンチェスター·ユナイテッドシボレー約66億8600万円
2位チェルシー横浜ゴム約56億9000万円
3位マンチェスター·シティエティハド航空約49億7900万円
4位トッテナムAIA約49億7900万円
5位アーセナルエミレーツ航空約42億6800万円
6位リヴァプールStandard Chartered約42億6800万円
7位ウェストハムBetway約14億2200万円
8位エヴァートンSportsPesa約13億6500万円
9位クリスタル·パレスManBetX約9億2500万円
10位サウサンプトンVirgin Media約8億5300万円

このようにプレミアリーグは企業にとって大きな広告塔になるため、多くの収入を得ることができています。そして、このランキングからプレミアリーグのスポンサーを務めている企業の多くがアジアと中東の国であることがわかります。イギリスの企業の数はわずか4社にとどまっています。

イギリスでの最近の動き

これまで多くのブックメーカーがプレミアリーグのスポンサーを務めてきたわけですが、ここ数年でこのスポンサーシップを禁止する動きが出ています。イギリスの貴族院はブックメーカーの名がかかれたプレミアリーグのユニフォームの使用を2023年までに完全に廃止することを求めており、その他のスポーツにおいても3年以内にブックメーカーとのスポンサーシップを解除することを求めています。また、スタジアムのギャンブル企業のロゴ、関連グッズのロゴに関しても規制される予定です。

2020年7月の時点で、24のチャンピオンシップクラブの内、半数以上である17以上のクラブチームがブックメーカーとのスポンサーシップを結んでいます。今回のスポンサーシップの解除については192ページにも及ぶ報告書にて要求されており、政府関係者はブックメーカーがプレミアリーグのスポンサーを務めることで、ギャンブルがより身近なものになり、ギャンブル依存症の被害者が増えることを懸念しているのです。

また、委員会はスポーツ番組を含め、スポーツのいかなる場においてもギャンブルに関する広告があるべきではないと述べています。

しかし、プレミアリーグのクラブチーム、その他のスポーツにおいても実際にこの規制が行われるのは2023年以降としており、猶予を与えています。また、これらの規制は競馬やドッグレースには適用されないとしています。

ブックメーカーによりスポンサーシップが禁止となれば、プレミアリーグクラブだけではなく、特に小さなクラブチームは大きな影響を受けることが予想されています。そのため、その後の状況に対応するためにも、3年間という準備期間が必要だとしています。2023年までの間、ブックメーカーとの新しいスポンサーシップを結ぶことはできないですが、現在のパートナーシップは2023年までであれば継続することができます。そのため、委員会はこの間に新しいスポンサーを見つけることを推奨しています。

一方で、イングリッシュ·フットボールリーグ (English Football League)はスポンサーシップを禁止するよりも、ギャンブルによる問題に対しブックメーカーと協力することでより大きな利益が得られるとも主張しています。

このようにイギリス国内ではギャンブル企業のスポンサーシップに対して、いろいろな議論が繰り広げられています。ギャンブル企業のスポンサーシップによりプレミアリーグは大きな恩恵を受けることができているため、今後メリットとデメリットを考慮しながら、より詳しく議論が進められていくでしょう。

イギリスの状況と世間の反応

イギリスには現在、ギャンブルに関連する問題を抱える人が43万にいるとされています。また。そのリスクにある人も200万人以上いるとされています。

ギャンブル企業がスポンサーを務める場合、プレミアリーグのクラブチームのユニフォームにブックメーカーの名が記載されることに加え、スタジアムにもロゴが追加されます。また、テレビで試合が放送されれば、ギャンブルに関するCMが流れます。これによって、子供を含む若い世代がギャンブルに興味を持ってしまうことが懸念されているのです。

また、プレミアリーグだけではなく、ワールドカップにおいても同様の動きがみられました。ワールドカップでは、ギャンブル関連企業の広告が試合中に多く表示されています。労働党の党首であるTom Watson MPは、「ワールドカップの欠点の1つはテレビやソーシャルメディアにおける大量のギャンブルの広告である」と述べています。

これにより、イギリスではルールが変更され、午後9時前にはテレビにてギャンブルに関する広告を放送できないようにしたのです。このようにイギリスではギャンブル企業を規制する動きがすでに多くあり、政府はスポーツとギャンブルを切り離そうとしているのです。

ギャンブル会社の自主規制

今回の規制のように政府からのギャンブル会社への圧力が強まっているため、ギャンブル会社側には自主規制をする動きがみられています。実際に自発的に広告の掲載を減少させるというプランを検討しているとされています。2019年には大手会社のPaddy Powerが自粛を決定しています。

このように大手ブックメーカーがすでに動き始めているため、2023年になる前に、ギャンブル企業のスポンサーシップは減少する可能性が考えられます。

経済的な打撃は?

ブックメーカーがスポンサーを務めることができなくなった場合、プレミアリーグにおける経済的な打撃は計り知れません。イギリスのイングランドの1~2部に所属する44クラブのうち27クラブがギャンブル関連企業とのスポンサーシップを結んでいます。

スポンサーシップ収益の総額はおよそ3億4900万ポンド(およそ507.9億円)ですが、そのうち6900万ポンド(およそ100.4億円)がギャンブル関連だとされています。例えば、ウェストハムはBetwayから年間1000万ポンド(およそ14.6億円)、ウォルヴァーハンプトンはManbetXから年間800万ポンド(およそ11.6億円)を収益として手に入れています。

スポンサーシップの禁止によりこの収益が一切なくなってしまうと、クラブチームの収益の5分の1がなくなるということになります。この穴を埋めるスポンサーを見つけることが難しく、2023年まで3年間の猶予があるといっても経済的な打撃は間逃れないでしょう。

また、ダービー·カウンティにおいては選手の給与をオンラインベッティングサイトの32Redが肩代わりしているという話もあります。現時点においても多くのクラブがブックメーカーに依存しているため、彼らからの支援を受けられなくなった場合、資金のやり繰りが相当厳しくなることが予想されます。